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トピックス : WEBサーバー監視サービスF-PAT【ファイルパトロール】

2025年8月21日(木)

WEBのクッキーの悪用と改ざんの関係

便利さの裏に潜むリスク

Webブラウザを利用する私たちは、「クッキー(Cookie)」という言葉を日常的に目にする。サイトにアクセスしたときに表示される「Cookieの使用に同意しますか?」というポップアップはもはや当たり前の光景だ。だが、その便利な仕組みの裏側で、悪意ある攻撃者による“悪用”や“改ざん”のリスクが潜んでいることは、意外と知られていない。

クッキーとは何か?

クッキーは、ユーザーが訪問したウェブサイトによってブラウザに保存される小さなテキストファイルだ。そこには、ログイン情報、言語や表示設定、閲覧履歴、ショッピングカートの中身など、ユーザー固有の情報が記録される。これにより、次回同じサイトを訪れたときに、再ログインが不要になったり、前回の設定が自動で反映されたりする。

身近な例がECサイトのショッピングカートだ。ユーザーが「カートに入れる」をクリックすると、その商品情報はクッキーに保存される。仮にブラウザを閉じても、次回アクセス時に商品が残っているのは、クッキーがカート情報を保持しているからである。もしクッキーが存在しなければ、ページを移動するたびにカートが空になり、快適な買い物体験は成立しないだろう。

このように、クッキーはWeb利用の利便性を支える基盤だ。しかし「ユーザーの端末に保存され、やり取りされる情報」であるがゆえに、盗み見られたり、書き換えられたりする危険性も同時に抱えている。

クッキーが悪用される仕組み

攻撃者はクッキーを利用して、ユーザーになりすましたり、意図しない操作をさせたりする。代表的な手口を見ていこう。

1. セッションハイジャック

多くのWebサービスは、ログイン後に「セッションID」と呼ばれる識別子をクッキーに保存し、ユーザーを識別する。攻撃者がこのクッキーを盗めば、パスワードを知らなくても同じアカウントでログインできてしまう。
クッキーは以下のような方法で奪われることがある。

  • Wi-Fiなどの通信を盗聴する「パケットスニッフィング」
  • 攻撃用スクリプトを仕込む「クロスサイトスクリプティング(XSS)」
  • マルウェアによるクッキーの窃取

2. XSSによるクッキー窃取

XSS攻撃では、悪意あるJavaScriptがWebページ内で実行され、クッキーを読み取って攻撃者のサーバーに送信するケースがある。HttpOnly属性のないクッキーは特に狙われやすい。

3. クッキーの改ざん

クッキーはユーザーのブラウザに保存されているため、ユーザー自身が自由に内容を書き換えることも可能だ。攻撃者はこの性質を悪用する。

たとえば、クッキーに以下のような情報が入っていたとする。

{
  "user": "taro",
  "role": "user"
}

これを攻撃者が手動で次のように変更した場合:

{
  "user": "taro",
  "role": "admin"
}

もしサーバーがクッキーをそのまま信じてしまえば、攻撃者は管理者権限を持ったユーザーとしてログインできてしまう。

なぜ改ざんされるのか?

根本的な理由は「クッキーはユーザー側に保存される」という仕組みにある。つまり、保存されたデータを改ざんすること自体は技術的に難しくない。問題は、サーバーがその改ざんに気づかず信頼してしまう設計にある。

開発者が「処理を簡単にするため」に、権限情報やステータスをそのままクッキーに入れている場合、改ざんは深刻なセキュリティリスクに直結する。利便性やパフォーマンスを優先して、セキュリティ検証を怠った結果が攻撃の入口になってしまう。

防ぐための対策

では、クッキーの悪用や改ざんを防ぐにはどうすればよいのか。以下のような実践的な対策が有効だ。

1. 署名付きクッキーを使う

HMACなどを用いてクッキーに署名を付与する。サーバー側で署名を検証し、改ざんされていれば拒否できる。

data=xxxxx; signature=hmac(data, secret_key)

2. HTTPSとSecure属性

クッキーが平文で送信されないよう、サイト全体をHTTPS化し、Secure属性を付与する。通信経路上でクッキーが盗まれるリスクを大幅に下げられる。

Set-Cookie: session=abc123; Secure; HttpOnly

3. HttpOnlyとSameSite

  • HttpOnly: JavaScriptからクッキーを参照できなくし、XSSによる窃取を防ぐ。
  • SameSite: クロスサイトリクエストでクッキーを送らないよう制御し、CSRF攻撃を防止する。

4. サーバー側でのバリデーション

クッキーの値をそのまま信用するのは危険だ。認証・認可の判断は必ずサーバー側で行うべきであり、クライアントに任せてはいけない。

エンジニアが取るべき具体的な対応は次の通りだ。

  • 重要情報はクッキーに保存しない
    ユーザーIDや権限などは、クッキーではなくサーバーのセッションストアやデータベースに保持し、クッキーにはセッションIDのみを渡す。
  • サーバー側での照合を必須にする
    受け取ったセッションIDをもとに、必ずサーバー側のストアと突き合わせ、ユーザーの状態や権限を確認する。クッキー内の「role=admin」といった情報を直接信頼してはいけない。
  • 入力値チェックと正規化
    クッキーから受け取った値は常にバリデーションを行い、期待する形式であることを確認する。異常値や不正な形式のデータは即座に破棄する。
  • 期限と無効化の仕組み
    セッションIDには有効期限を設け、ログアウトや一定時間の経過後は無効化する。これにより、盗まれたクッキーの悪用可能時間を最小限にできる。
  • 権限チェックの徹底
    管理画面へのアクセスや重要な操作は、毎回サーバー側でユーザーの権限を確認する。フロント側でUIを隠すだけでは不十分で、必ずバックエンドでブロックする必要がある。

これらを実装して初めて、クッキーを介した攻撃に強いシステムになる。クッキーは「便利なメモ帳」程度に扱い、本当に信頼できる情報は必ずサーバーで管理するという意識が求められる。

クッキーとの付き合い方:利便性を守りつつ安全に使うために

クッキーは、ECサイトのカート機能やログイン状態の保持など、現代のWeb利用に欠かせない存在だ。しかし、その便利さは攻撃者にとっても利用しやすい仕組みでもある。

クッキーの安全性は、設計段階からの意識と適切な運用によって守られる。開発者が「ユーザー側で保存される情報は常に改ざん可能である」という前提に立てば、不正アクセスや情報漏えいのリスクを大幅に抑えることができる。

ユーザーにとって「当たり前の便利さ」を安心して享受できるようにすること。それこそが、クッキーを扱う開発者に求められる最大の責任である。