2025年9月9日(火)
Webブラウザを使う私たちは、日常的に「クッキー(Cookie)」という仕組みに触れている。アクセス時に表示される「Cookieの使用に同意しますか?」というポップアップはもはや当たり前の光景だ。
しかし、その便利な仕組みの裏側には、Cookieのセキュリティに関わる深刻なリスク――悪用や改ざんの可能性――が潜んでいる。
クッキーは、訪問したWebサイトによってブラウザに保存される小さなテキストファイルだ。ログイン情報、言語設定、閲覧履歴、ショッピングカートの中身など、ユーザー固有のデータが記録される。
例えばECサイトで「カートに入れる」をクリックすると、その商品情報はクッキーに保存され、次回アクセス時にも残っている。もしクッキーが存在しなければ、ページを移動するたびにカートが空になり、快適な買い物体験は成立しないだろう。
このようにクッキーはWeb利用の利便性を支える重要な基盤だが、「ユーザー端末に保存される情報」であるがゆえに、Cookieの安全性を軽視すれば盗み見や改ざんのリスクを抱えることになる。
Cookieのセキュリティを考えるとき、守るべき対象は一つではない。大きく分けて次の二つの側面がある。
ユーザー端末に保存されるクッキーは、攻撃者やユーザー自身によって内容を書き換えられる可能性がある。
「role=user」を「role=admin」に書き換えるようなケースが代表例で、サーバーがそのまま信じれば深刻な被害につながる。
これはCookieのセキュリティを語る上で最も基本的な脅威だ。
攻撃者はクッキーを盗んだり偽装したりして、正規ユーザーになりすまし、Webサイト自体を改ざんする。
セッションハイジャックやXSS経由のCookie窃取から、管理者アカウントに侵入し、ページ内容や設定を改ざんする攻撃がこれにあたる。
クッキーの不正利用はユーザー個人の被害にとどまらず、Webサービス全体の信頼性を揺るがすリスクを持つ。
この二つの側面を理解して対策を講じることが、Cookieのセキュリティを実効的に高める鍵となる。
攻撃者はクッキーを利用して「なりすまし」や「不正操作」を行う。代表的な手口は次の通りだ。
ログイン後、多くのWebサービスは「セッションID」をクッキーに保存してユーザーを識別する。攻撃者がこのクッキーを盗めば、パスワードを知らなくても同じアカウントにログインできてしまう。
奪われる方法の例:
XSS攻撃では、悪意あるJavaScriptがクッキーを読み取り、攻撃者のサーバーに送信する。HttpOnly属性が設定されていないクッキーは格好の標的となる。
クッキーはユーザー端末に保存されるため、内容を書き換えることができる。
例:
{"user": "taro", "role": "user"}
を
{"user": "taro", "role": "admin"}
に変更し、サーバーがそのまま信じてしまえば、攻撃者は管理者権限を取得できてしまう。
理由は単純だ。クッキーはユーザー側に保存されるという仕組みにある。保存されたデータを書き換えること自体は難しくない。問題は、サーバーが改ざんに気づかずそのまま信じてしまう設計にある。
開発者が利便性やパフォーマンスを優先して、権限情報やステータスを直接クッキーに入れてしまうと、Cookieのセキュリティリスクは一気に高まる。
クッキーの悪用や改ざんを防ぐには、以下の対策が有効だ。
HMACなどで署名を付与し、改ざんされていればサーバー側で拒否する。
通信を暗号化し、クッキーを平文で送信させない。
HttpOnlyでJavaScriptからの参照を防ぎ、XSS攻撃を抑止する。
SameSiteでクロスサイトリクエスト時にクッキーを送らないよう制御し、CSRFを防止する。
クッキーをそのまま信用せず、必ずサーバー側で検証する。
さらに具体的には次のような対応が必要だ。
これらを実装して初めて、Cookieのセキュリティを確保できるシステムとなる。
クッキーはECサイトのカートやログイン状態の保持など、現代のWeb体験に不可欠な存在だ。しかし同時に、攻撃者にとっても利用しやすい仕組みでもある。
Cookieの安全性は設計段階からの意識と適切な運用によって守られる。開発者は「ユーザー端末に保存される情報は常に改ざん可能」という前提を持ち続ける必要がある。
ユーザーが安心してWebを利用できる環境を作ること――それがCookieを扱う開発者に課された最大の責任である。