
2025年12月24日(水)
メールは便利だけれど、いつの間にか危険が入りこんでしまう場所にもなりました。とくにフィッシングメールは、企業の名前やデザインを勝手に使い、利用者を騙して情報を抜き取ろうとします。一見すると本物かどうか分からないことも多く、注意していても引っかかる人が出てしまいます。
こうした状況を少しでも良くするために、メールの送信元をより分かりやすく示す仕組みが生まれています。その一つが BIMI です。少し聞き慣れない言葉ですが、考え方はとてもシンプルで「正しい送信者だけが、自分の公式ロゴを受信者に見える形で表示できるようにする」というものです。
ここでは、BIMI の基本、どう役に立つのか、使うには何が必要なのかを、専門用語をできるだけ減らして解説していきます。
BIMI は Brand Indicators for Message Identification の略で、メールにブランドの公式ロゴを表示する仕組みです。Gmail や Yahoo! メールなど、対応しているサービスであれば、受信トレイに企業のロゴが小さく出ます。
たとえば Amazon から本物のメールが届いた場合、並んでいるメールの左側に Amazon の公式ロゴが表示されます。同じような件名を騙っている偽メールには表示されません。受信者はロゴを見るだけで「これは本物らしい」とざっくり判断できます。
ポイントは、ただロゴを置くだけではなく、企業側が一定の認証をクリアしていないとロゴが表示されないことです。しっかりした送信者であることを証明したうえでロゴを使える。この流れが、フィッシング対策の一助になります。
なぜ BIMI のような仕組みが必要になったのか。理由はいくつかあります。
まず、フィッシングメールが年々巧妙になっていることです。差出人表示を本物そっくりにしたり、公式のメールに似たデザインや文面を使ったりするケースが増えています。以前なら判断できた違和感が、今はほとんど見えません。
さらに、多くの人がスマートフォンでメールを見るようになりました。画面が小さいため「送信者名」「件名」「アイコン」といった限られた情報だけで真偽を判断する場面が増えます。見た目の判断材料を増やすことは、そのまま安全性の向上につながります。
最後に、企業側の視点でも課題があります。フィッシングメールが出回ると、ユーザーが不安になり「この企業のメールは危険かもしれない」と考えてしまいます。本当は関係のない企業が、偽メールのせいで信用を落とすこともあります。正しいメールと偽物を区別しやすくすることは、ブランド保護にも役立ちます。
このように、送り手にも受け手にもメリットがあるのが BIMI です。
BIMI を使うには、いくつかの土台となる認証技術が必要です。むずかしく聞こえるかもしれませんが、要点だけ押さえれば十分理解できます。
メールの世界には、送信元を確認するための SPF と DKIM という技術があります。これは企業が設定する DNS に情報を書いておき、メールを受け取った側が「この送信元は本物か」を照合する仕組みです。
SPF は「どのサーバーがメールを送っていいか」を示します。DKIM は「メールが途中で書き換えられていないか」を確認します。
SPF と DKIM をどう扱うかを決めるルールが DMARC です。受信したメールが認証に失敗した場合に破棄するか、それとも隔離するか、送信者側が方針を示します。BIMI を使うには、この DMARC が厳しめの設定になっている必要があります。
DMARC が「reject」もしくは「quarantine」の状態で正しく運用されていることが重要です。これにより、なりすましメールが届きにくくなります。
SPF、DKIM、DMARC の運用が整ったうえで、企業の DNS に BIMI 専用のレコードを追加します。ここに「どのロゴを使うか」を書き込みます。ロゴのファイル形式は SVG が基本です。
Gmail など一部のサービスでは、BIMI をフル活用するために VMC という証明書が必要です。これは企業ロゴの正当性を第三者が確認した証拠のようなものです。これがあると、企業ロゴがより確実に表示されます。
BIMI のいちばんの良さは、受信者がメールを見た瞬間に安心材料を得られることです。
ロゴが表示されていれば「企業自身が認証を整えている」と分かります。もちろんロゴが出ているから絶対に安全というわけではありませんが、少なくとも認証をクリアしていない偽物よりは信頼度が高なります。
毎日たくさんのメールが届く中で、ロゴがあれば目的のメールを見つけやすくなります。業務で多くのサービスを使っている人ほどこの効果は大きいはずです。
スマホの画面では情報が限られているため、小さなロゴでも判断材料になります。ロゴの色や形は認識しやすいので、ぱっと見て「ああ、これはいつものところからだな」と分かります。
企業が BIMI を導入する理由は、受信者の安全だけではありません。自社のブランドを守り、メールを届けやすくする効果もあります。
認証がしっかりしている企業のメールは、受信サービス側からの評価も上がります。不正なメールが弾かれやすくなり、結果として本物のメールが迷惑フォルダに入りにくくなります。
ロゴが受信トレイに表示されることで、自社のブランドイメージを一貫して届けられます。メール経由の接触ポイントが増えるほど、ユーザーに覚えてもらいやすくなります。
「この企業はきちんと認証を整えている」と受信者に伝わるため、イメージ向上にもつながります。ユーザーが迷わずにメールを開けるというのは、実務的にも大きな利点です。
BIMI は便利ですが、導入前に知っておいた方がいい点があります。
BIMI で使うロゴは SVG 形式で、構造がシンプルなものが求められます。影や複雑な装飾が多いロゴは修正が必要になることがあります。
BIMI の前提として DMARC を厳しく設定する必要があります。これまで緩めの設定で運用していた場合、メールが意図せず弾かれる可能性があるため、移行には慎重な確認が必要です。
BIMI を設定しても、受信サービスが BIMI に対応していなければロゴは表示されません。現時点では主要なサービスでの対応が進んでいますが、すべてではありません。
BIMI はまだ発展途中の仕組みですが、対応するメールサービスは少しずつ増えています。企業側もブランド保護の必要性を強く感じているため、今後さらに普及する可能性が高いです。
利用者の側からすれば、信頼できるメールを見分けるための新しい基準が増えることになります。ロゴが表示されるかどうかを気にかけるだけでも、危険なメールを避ける助けになります。
また、BIMI が普及することで、企業が認証を整える動きも加速します。結果的に、インターネット全体のメール環境が少しずつ安全に近づいていくことが期待されます。
フィッシングメール対策は、これまで「受信者が気をつける」ことに頼りがちでした。しかし、注意だけでは追いつかないほど攻撃は巧妙化しています。BIMI は、その負担を少しでも減らし、見た目で分かりやすく本物を示す役割を担います。
重要なのは、ロゴを表示するために企業が厳しい認証を整えているという点です。BIMI は単なる飾りではなく、裏側にしっかりしたルールがあります。
受信者にとっては、毎日のメールチェックが少し安心になり、企業にとってはブランドや利用者を守る力になります。メールという古くて親しいコミュニケーション手段に、実用的な安全策を加えていく。それが BIMI の登場してきた背景です。